枚方寝屋川消防組合が8月3日(火)〜5日(木)にコマツ大阪工場(枚方市上野3丁目)で解体予定の建物を利用した消防訓練を実施しました。
7月に静岡県熱海市で発生した大規模土石流による災害を受けて、これからの台風シーズンや大地震に備え、緊急消防援助隊の派遣を想定した救出訓練を実施したものです。
<訓練の目的>
※枚方寝屋川消防組合の公式ホームページより
・実現場経験の少ない若手職員へのより実践的な経験
・真夏での大規模災害の過酷さやローテーションの重要性を理解する
・各種高度資器材の取り扱い
・緊急消防援助隊派遣対応
訓練は実現場経験を積むため、建物の屋根を資器材で破壊して進入するとともに、隊員には時間内に要救助者を救出するミッションが課されました。(建物の破壊訓練は3月にも枚方市駅前で行われています。)
今回の記事でご紹介するのは、8月5日(木)の午前中に実施された訓練(3日目)の様子です。
こちらの鉄筋コンクリート造2階建て(約2600平方メートル)のレストハウスが大規模災害により倒壊したという想定です。レストハウスまでの道路は寸断されていて、約1kmの道のりを徒歩で向かうしかありません。
はじめに行われたのが必要な資器材の選定です。リヤカーに発電機、地中音響探知機、ハンマードリル、バール、地震警報器などを積んでいきます。
若手隊員達に対して拡声器で「何がいるのかを考えて積載」「水分も忘れずに」「資器材を出しっ放しにしない」などの声が飛びます。
3連はしご、救助用のバスケットストレッチャーなども必要不可欠な資器材です。
制限時間内に準備が終わると、1km先の活動開始場所に移動します。午前中にも関わらず、すごく暑い!
最初に現場に駆けつけたのは、先遣隊です。隊員にはガス漏れの有無や「開店準備のため出勤予定の従業員3名と連絡が取れない」などの情報が無線で入ってきているようです。
現場にいた目撃者の話を聞きつつ、別の隊員が「消防です!誰かいますか!?」「音を出すか声を出してください!」と大きな声で呼びかけますが、要救助者の応答はありません。
倒壊した建物に開口部はなく、屋外から陸屋根を破壊して進入するしかありません。隊員が3連はしご(伸ばすと約9mになります)を上って、屋上の状況を確認します。
その間に他の隊も現場に到着し、資器材の準備が行われます。
隊員とともに必要な資器材も屋根に搬入されます。
倒壊した建物の下敷きになった要救助者を探すのに役立つのが、地中音響探知機です。「消防です!誰かいますか!?」「たたいて音を出すか声を出してください!」と呼びかけ、要救助者の音や振動を探知します。
しばらくして「1と2の間、1側から音が聞こえます!」という隊員の声が。(探知できるのは40mほどで、今回の訓練は屋内で他の隊員が音を出しています。)
探知の結果、この辺りを破壊することになりました。中に人がいる可能性にも留意しながら、ハンマードリルで穴を開けます。
ハンマードリルは前後に動くハンマーと回転するドリルが合わさったパワフルな工具です。
小さな穴が貫通すると、コンクリートの厚さが20cmほどであることが判明。再度声をかけながら、小さな穴に画像探索機を差し込んで中の様子を確認します。
中の状態がある程度把握できれば、穴を大きくするための破壊作業を再開。要救助者は72時間を過ぎると生存率が著しく下がると言われていますが、今回の訓練は災害発生から3日目で日没までに救出するというミッションです。
この日は最高気温が38〜39℃に達するほどの猛暑でした。真夏で体力を消耗するため、隊員はローテーションを組んで作業を行います。真夏の過酷さとローテーションの需要さを学ぶのも今回の訓練の狙いです。
別の隊員は要救助者の搬送の準備を並行して行います。長時間に及ぶ救助活動の割り振りは現場の小隊長が考えるのだとか。
開いた穴を屋内(2階)から見た様子がこちらです。
隊員がロープを使って屋上から2階に降下します。「右肩の鉄筋に気をつけろ〜!」などの声が。
降下先の2階では「現在見える範囲で要救助者を発見できず!」
職員の通勤時間帯であったことや1階に駐車場があるという情報を元に、2階の床(1階の天井)に穴を開けることに。
1階を検索した結果、2人の要救助者が駐車場で発見されました。
1人(マネキン)は車の下敷きになった大変厳しい状況で、もう1人(要救助者役の隊員)は車内で助けを求めています。
まず車内の人に落ち着かせる言葉をかけて安心してもらいます。続いて受傷機転(いつ、どこで、どのように受傷したか)・訴え・他に要救助者はいるのかを聴取して、これからどのように救助していくのかを説明します。
人員が限られる中、救助の優先順位をつけるのも重要な任務です。今回の訓練では下敷きになった人から救助することになったようです。隊員が力を合わせて車を持ち上げます。
下敷きになっていた人は救出されて、先に搬送されていきました。
続いて車内の人を助ける作業に移ります。
最初はドアを引っ張って開けようとするも、ドアハンドルが外れて開かず。
続いてバールでこじ開けようとするも、なかなか開きません。
要救助者の救出に必要な助手席のドアを開けるのには時間がかかっている様子でした。
最終的に車内にいた要救助者は外に運び出されていきました。
3人目の要救助者の検索も並行して行われます。
3人目の要救助者は、2階の厨房から保守点検用の急な階段を上がったところにある屋根裏のような場所で発見されました。救助隊が到着したので、落ち着かせる言葉をかけ安心してもらいます。次に受傷機転(いつ、どこで、どのように受傷したか)・訴え・他に要救助者はいるのかなどを聴取して、これからどのように救助していくのかも説明します。
要救助者は腰を痛めていることが分かったため、慎重に運び出します。急な階段を下りる必要があることから、無線でバスケットストレッチャーを要求。バスケットストレッチャーが到着するまでの間も、要救助者に声をかけ続けます。
制限時間が迫る中、隊員にも「絶対助けるんや!」などのゲキが飛びます。
バスケットストレッチャーが到着すると、要救助者は縛着されて運ばれていきました。
要救助者は先ほど開けた穴から屋上へと吊り上げられ救出されました。
訓練が終わると、警防課課長補佐の方が「暑い中ホンマにようがんばってくれた」「救える命を救うのにはどこにマンパワーを割くべきか」「今回の訓練を今後の活動に活かしてほしい」などと講評している様子でした。
消防の方によると、実際に建物を破壊して訓練を行う機会は少なく、実践的な訓練を行うことができたということです。
今回2時間半ほど取材して、普段見ることができない消防隊員の方の働きを見ることができ、貴重な経験でした。
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